Vol.4 「クロパン」栽培から製造まで、子供たちの健康願って

Vol.4 「クロパン」栽培から製造まで、子供たちの健康願って

 Vol.4   農業共済新聞四国版 6月24日発行号

鳴門市 樫原道雄さん・田渕 豊さん

 

2人の男性の手によって生み出されたパン窯が鳴門市にある。自分たちで考案・設計したというその自慢の窯は、日本式の「クロパン」を焼くために造ったものだ。樫原道雄さん(91)と田渕豊さん(73)の2人の思いを紹介する。

自分たちで設計・考案し、作られたパン釜

 

 シベリア抑留で製造法を体得

せときららの圃場で樫原さん

戦後、シベリアの地に捕虜として抑留されていた樫原さん。当時は「マステル(親方)」と呼ばれ、現地の人が口にするパンを作っていた。「毎日4㌧ものクロパンを焼きながら、いつか日本人に合う日本式のクロパンを作って、良さを広めたいと思っていました」と振り返る。
樫原さんは現在、「せときらら」という品種の小麦を約30㌃栽培している。その麦を現地と同様に全粒粉として使用し、おいしく健康的で、よりエネルギーを得られるようにと考えて完成したのがクロパンだ。そして、徐々にその評判が地域の人たちに広まっていった。
そんな樫原さんの地道な活動に共感し、バトンタッチされたのが田渕さんだ。農業は全くの未経験で、最初は苦労することが多かったという。「自分が麦を作ったり、パンを焼いたりするなんて、想像もしていなかった」と話す。

 

添加物は不使用/麦の風味広がる

パン窯の横で焼きたてのクロパンを手に田渕さん

田渕さんが作るクロパンは、樫原さんのクロパンをベースに、添加物などを使わないようにして作られている。子供たちに食の大切さを伝えたいという気持ちからだ。
名前の通り黒色のパンは、ちぎると麦の芳醇(ほうじゅん)な香りが辺りに漂い、食べるとさらに口いっぱいに広がり、濃厚な麦の風味と自然の甘味が特徴だ。

樫原さんから受け継いだクロパンに、田渕さんは子供たちに伝えたい「食育」の思いを込めて大切に作っている。現在は知り合いからなどの注文だけだが、今年8月中旬ごろからはインターネットなどでの販売を予定している。